「Land Crawler 2×2」を作る

IAMASの2018年度卒展で、筆者(sy)は、変わった形の自転車を試乗出来る、体験型の展示を行った。その中の作品の一つとして製作した「Land Crawler 2×2」 は、簡単にいうと「うつ伏せになって乗る自転車」である。

展示場所でのLand Crawler 2×2。

こういった活動を行う目的は、変わった形の乗り物に乗り、普段感じている感覚とは全く違う身体感覚を感じてもらうことにあった。そこで、今回の記事では、この作品の制作過程を順を追って説明し、この作品で感じて欲しかった身体の感覚について、記述して行きたい。

自分を撮影し、それを元にいくつかの体勢を考えて見た。

制作の初期段階から、うつ伏せの体勢で乗る物を作ることは決めていたので、まず最初はどこに重心を置くかを考えることが重要だった。そこで、自分の身体を撮影し検証した結果、体の角度を決めることができた。

胸板の製作。荷重のため、途中から補強作業をするほかなかった。
動力部の子供用の自転車の一部。早く走るという構想は最初からなかった。

そこから実際に作って行く。まずは一番体重が掛かる胸板の部分と、後輪に続くフレームを作った。動力部は、子供用の自転車を半分に切断し、後ろ半分を使用した。この作品では、体重が掛かると胸板部分の関節が回り、体の位置が地面に向かって下がって行くのが特徴である。そうすると、うつ伏せという体勢に加え、関節が動いてしまうため、バランスの取り方が難しくなる。そうすることで、体験者が嫌でもバランスを取ることをするように誘導したかった。

各軸ごとに回転する関節部の製作。これにより、体験者はバランスを取らざるを得なくなる。
関節部が元のいちに戻るため必要なバネ。
デザインした角度での荷重は思ったより重く、最終的には50kgバネ計りを設置した。

そこで、写真のように関節部を作り、それを胸板に繋げ、また、体が元の高さに戻れるよう、バネを設置した。最初に決めた胴体の角度とこういった構造により、体験者は身体のバランスを下半身ではなく、上半身を使って取らなければならなくなる。そして、この体験を持って、「普段私達がどれほど簡単に、下半身を無意識に駆使してバランスを取っていたのか」を感じて欲しかった。

前から見た様子。個人的にこういった部品丸出しの感じが好みでもある。

さらに、この自転車は、前輪を左右別々に制御するようにした。手首を使って前輪を回し、ステアリングをするのだか、両方の車輪の角度を合わせなければ行けない。「ハ」の字の状態でも、その逆でも、いずれ前輪同士がぶつかったり、ロックが掛かってしまうのだ。このため、体験者は自分の手首の角度に気を使うことになり、結果的に上半身の動きに、もっと集中することになる。

試運転の様子。上半身の動きを使って左右のバランスを取らなくてはいけない。

整理すると、この作品は、普段下半身を無意識のうちに使って、バランスを取り、それが「当たり前」だと思うことに対し、一度それを感じ直す経験をさせる装置と言える。その体験はあまり愉快なものではないかも知れない。しかし、少し考えてみると、この自転車を乗るとき必要な、上半身でバランスを取るという「異質な感覚」は、下半身が不自由で、車椅子で生活をする方や、各自の身体条件によっては、それが「日常」なのかも知れないと、想像できるはずだ。

作品の名前である、Land Crawler 2×2は「地を這う者」という意味の「Land Crawler」と、「腕2本と脚2本」という、我々が普通だと思う、身体の状態を表す「2×2」から来ている。結論として筆者は、普段慣れ親しんだ「普通」と読んでいる身体感覚と生活は、場合によっては幾らでも変化し得るものだと、この作品を通じて伝えたかった。

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