そうだ、お風呂に行こう!自転車の置ける大阪の銭湯

夫の友人たちとサイクリングに出かけると、しばしば尋ねられることがある。「妻がライドしてくれない。どうしたら一緒に来てくれるだろう?」多くの場合は「一度は一緒に出かけてみたが来てくれなくなってしまった!」というものだ。ある男性に、どんな風に走っているのか聞いてみると、大抵「ただ乗っているけど?」という答えが返ってくる。私は、あぁ、そうだよね。と納得する。

まだライドそのものの楽しさを知らない多くの女性にとって、自転車は移動の「手段」であって「目的」ではない。自転車の発明がもたらした女性の生き方革命について語られている本「Wheels of Change: How Women Rode the Bicycle to Freedom」がある。この中である女性は「自転車があったから学校に行くことができた」と話している。私にとって自転車に乗りることは「どこかに行くこと」なのである。ただ強い日差しや乾燥した空気に繊細な肌をさらし、汗水を垂らして、優越感に浸るためのハイスピードで走り抜けることには、全く興味がない、むしろ避けたい行為である。

しかしそれに「目的」が加われば、灰色のアスファルトが、急に銀色に輝きだすのだ。彼女たちを誘うには、ときめくような、或いはうっとりするようなゴールがあればいい。美しい自然を通り抜けて、そこにあって欲しいのは、焼きたてのパンの匂いを放つシックなベーカリー、地元の新鮮な野菜を使った古民家のランチ、おしゃれなカフェの洗練されたデザート。可愛らしくて個性的な雑貨屋さん。そして汗で汚れ、疲労した身体には…そう温泉、お風呂があれば最高だ。

大阪に「自転車湯」と名乗るお風呂屋さんがある。店主は、自転車で銭湯巡りをするという趣味が高じて、60年前から続く銭湯を昨年(2017年)に9月に引き継いだそうだ。高級な小径車やロードバイクは店内で預かってくれる、という自転車乗りには安心で優しいお風呂である。お風呂では、ゆっくりしたいけれど、自転車の盗難が心配でのんびりできない。そんな経験が、自転車乗りなら1度はあるだろう。

この自転車湯(正式名称は千鳥温泉)の近くの千鳥橋を降りると、どこか懐かしいレトロな街が広がる。古い市営住宅、道路を渡る低い電線… そこに向かって歩いていると、どこからか「カンカラン、カラン」と鐘のいい音がする。その音の方向に目をやると、子供の頃のおぼろげな記憶に残っている「自転車の豆腐売り」のおじいさんが重たそうな自転車のペダルを漕いでいた。古き良き昭和の面影を残す街である。

そんな街並みの中に、自転車湯はあった。店の前には近所の方のママチャリがずらりと並ぶ。暖簾に吸い込まれるマイ洗面桶を抱えたおじさん、杖をつきひとりでやってくるおばあちゃん、親子連れ。地元の人に愛されている銭湯だということがすぐに分かった。

鍵のできる靴箱に靴をいれて中に入る。窓際に鎮座している2台のBROMPTONは、お客さんと店主の桂さんの愛車だそう。カウンターでは奥様が暖かく出迎えてくれた。奥様もサイクリングが大好きだそうで、話しが弾む。440円の入湯料を支払い、20円でフェイスタオルを借りる。広々として綺麗に清掃された脱衣所。天井の高い浴室。洗い場の蛇口は、2つに分かれ、赤からは湯、青からは水が出るようになっていて、熱い湯と水を混ぜて自分で適温を探すのだ。すっかり忘れていたシステム。懐かしい。大きな湯船に浸かって手足を伸ばすと、とても気持ちがいい。乾式サウナと水風呂もあるので、ロングライドで疲労した筋肉を冷やすことも可能だろう。次はぜひ自転車で訪れようと思った。

千鳥温泉(自転車湯)http://jitenshayu.jp/

3 comments

  1. 私もご褒美がないと走れません。毎週乗ってるのはお気に入りのカフェに行くのが目的だと言っても過言ではないです。武子さんらしい、行間から愛のあふれたテキスト、いいですね。

    1. ありがとうございます。また頑張って記事を書いてみようという気になりました、笑。

      お気に入りのカフェ、いいですね。都心ならちょっと漕ぐと、可愛いお店がいっぱいありますね。

  2. ところが僕の行ってるのはさいたま市のはずれにあるサイクルカフェで、最近マスターの影響でみんなオフロードを始めているという酔狂なお店です。僕がBromptonを買ったのも1/2くらいはマスターの影響です(赤松さんの影響もたぶんあります)。

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