大英帝国Brooksのサイクリング文化概論

Brooks Englandは、クラシカルな革のサドルやカバンで有名な自転車用品の老舗。そのBrooksが創業150年を記念して2016年に刊行した豪華本が「The BROOKS COMPENDIUM OF CYCLING CULTURE(Brooksのサイクリング文化概論)」だ。上質紙191ページのハードカバーで、通常本は£30(約4,600円)。化粧箱入りで署名写真付きの特別版は£350(約54,000円)なので恐れ入る。

布張りの装丁には、伝統的な革サドルを模した3つ穴が穿たれているのが印象的。中身も凝っていて、最初の十数ページにも3つ穴が穿たれ、水色の特殊紙に金色の特色インクが載る。続くページには落ち着いたトーンのイラストや写真が添えられ、洗練されたレイアウトが美しい。すべてセリフ・フォントのタイポグラフィも、気品と余裕に溢れている。このコーヒー・テーブル本としてのシャレオツ感は半端ない。

内容としては、Brooksの歴史や製品は僅かに登場する程度。マーティン・パーが撮影した工場での写真すら、即物的な宣伝臭はない。主眼となるのは、Brooksが好み育んだサイクリング・カルチャーを通して浮かび上がる理念だろう。インタビューにはポール・スミスやサイモン・モットラム(Rapha)、ウィル・バトラー・アダムズ(Brompton)など、英国の誇り高き面々が登場する。

別の視点からは、大英帝国発明品が紹介される。例えば、歯ブラシ(1770)や缶詰(1810)、電話(1876)などとともに、もちろん革サドル(1878)がある。自転車関連の美術品としては英国ではないが、デュシャンの車輪(1913)やピカソの雄牛(1942)に続いて、しっかりザノッタのセラ・スツール(1957)が登場する。他にも嫌味すれすれのブリティッシュ・ジョークが随所に紛れ込んでいる。

ところで、はたと気がついた。筆者はBrooksの名前こそ知っているものの、その製品は何一つ買ったことがない。Brookに似合う自転車はカーボンではなく、クロモリだろう。合わせる衣服はツイードであって、ハイテク素材ではない。つまり、趣味が合わない。とは言え、この本のページをめくりながら、革サドルを買って乗り心地と経年変化を楽しんでみようかと思ったのも確かだ。

3 comments

    1. BromptonにBrooksを付けるってことですか。イイと思います。

      1. 私は今のところその気は無いのですが、BromptonにBROOKSは定番的なようなんですね。特にサドルとグリップで。
        ただ皮のメインテナンスにはちょっと自信がなくて、そこまでしなくてもなぁ…と思ってしまっています

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