ソフィー・クレメンツの自転車サンバ

ロンドン在住のビジュアル・アーティスト、ソフィー・クレメンツ(Sophie Clements)は、科学や実験音楽からインスピレーションを得た映像やインスタレーションを数多く制作している。そんな彼女が、サウンド・アーティスト、ジョン・ヘンディコット(John Hendicott)とともに、自転車を題材に作ったのが「Bicycle Samba」、自転車のサンバだ。古めかしい白黒のブラウン管風映像だが、2004年の作品。

自転車を楽器とする楽曲では、johnnyrandomの完成度が高い。だが、それよりも本作は制作時期が早く、素人っぽいものの、ユルい楽しさがある。映像のカット展開もテンポ良い。自転車パーカッションはソフィーが、シフト・ケーブルのフレットレス・ベース演奏はジョンが行っている。彼らの自転車愛好度は分からないが、ソフィーは車輪とLEDを組み合わせた「Competing Colours」も制作している。

ところで、viemoの説明には「all sounds directly from the bicycles!」とある。つまり、自転車以外の物品や楽器を使っていないと言いたいのだろう。ご丁寧にも「no cheating」と括弧書きされている。だが、明らかにライブ演奏の一発録りではない。少なくとも多重録音だろうし、DAW上の編集もあるかもしれない。それを誤魔化しではないと嘯くなら、テクノロジーに対して無自覚過ぎる。

わざわざ白黒のブラウン管映像を使うことも、ノスタルジーを醸し出す雰囲気作りであり、誤魔化し以外の何者でもない。楽曲のスタイルがサンバであるのも解せない。誰もが踊りたくなる複合的なリズムとノリの借用は、本質的な理由があるのだろうか。音楽も映像も素晴らしく、リラックスして楽しめるだけに「no cheating」が蛇足に思えてしまう。同様の映像編集も誤魔化しナシと言うのだろうか。

これは揚げ足取りではない。「no cheating」には自転車を素朴な道具と見なす風潮と同質のまやかしがあると指摘したい。サイクリングの健全さにこだわる規範も同様だ。何百万年か前に骨を棍棒として振り上げた瞬間から、私たちはテクノロジーとともにある。自転車もカメラもマイクも、私たちの能力の大いなる拡張に他ならない。それは「誤魔化し」でなく、積極的に押し進めるべき叡智だと思う。

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