前輪駆動リカンベントCruzbike T50の組み立て

世にも珍しい前輪駆動のリカンベント、CruzbikeのT50が届いたのは半年ほど前。これはフレーム・セットであったので、コンポーネントを買い揃えて組み立てなければならない。ただ、当時は自転車事故で足が不自由であり、取り組むのは困難であった。やがて怪我は軽快したが、生来の無精者ゆえに当初の意欲は減退気味。時間ばかりが経ちかねないので、早々に諦めて近くのプロショップに駆け込んだ。

このショップは、これまでも無理難題をお願いしてきたので、今回も二つ返事で引き受けてくれた。ただし、日本では入手困難なパーツがあるので、全体としての整合性を考えてコンポーネントを選択したいこと、他にはない機構のフレームなので、少なからず試行錯誤が必要であること、従って作業期間と作業工賃を多めに見て欲しいこと、が条件。つまり、ノンビリお任せ路線だ。

とは言え、実際の作業期間は約1ヵ月、作業工賃は3万円で、これは当初の見積り通り。ボーナスと年末の繁忙期にもかかわらず、その合間をぬって面倒な作業をしていただいたわけだ。実際にもパーツの適合やケーブルの取り回しに難航したらしい。メーカーのWEBサイトを参考にしたが、推測しなければならない箇所が多く、前例のない自転車なので、制動性や乗り心地の判断も難しかった、とのこと。

さて、メーカーが提示しているパーツはSRAMなどアメリカ製が多いのに対して、ショップが選択したパーツはシマノが中心になっている。シマノは信頼性が高く、日本では流通が多いので妥当な選択だろう。後学のためを思ってか、分厚い製品カタログを開きながら、それぞれを説明してもらえるのは有り難い。シマノならプラモデル並に簡単と聞くが、それは相応の知識と経験がある上での話と痛感する。

メーカー推奨のパーツ・リスト
実際に使われたパーツ・リスト

驚いたことに実際に使われたパーツが随分と多い。つまり、メーカーのリスト通りにパーツを揃えても、それだけでは組み上がらないわけだ。自分で取り組んでいたら、完成に至らなかったはず。これぞ、スマイル・カーブに示されたブラントとは対極に位置するサービスに他ならない。今回は特殊な事例かもしれないが、単純な大量生産や販売ではなく、知識やノウハウが価値となることを如実に示している。

ここで思い出すのは、かつての自作PC文化。自作と言っても、マザーボードに数種類のパーツを選んでケースに入れる程度だが、組み合わせを考えたり、部分的に取り替えたりできるのが醍醐味。マザーボードをフレーム・セットに置き換えれば、PCと自転車との類似性が分かるだろう。ただし、自転車は、PCとは比べようがないほど組み立てと調整に手間がかかり、多くの工具が必要になるらしい。

自作PC文化が衰退したのは、極端な独自化と集積化が進んだからだ。メーカーの利益独占の戦略も大きい。これは今日のスマートフォンを見れば良く分かる。同じように自転車も完成車として買うのが一般的だ。PC等でのBTOと同じく、バリエーションやカスタマイズの余地は残されている。だが、それも次第に選択肢は狭まるだろう。性能と価格を追求するならば、自由な組み合わせの余地はないからだ。

ちなみに筆者は自作PCに興味がなかった。同様に自転車も完成車を好む。実際に大切なのは、パーツの組み合わせではなく、自転車として性能や乗り心地だからだ。それはシンクロシフトで感じたことと同じ。アリストテレスも全体は部分の総和以上であると述べている。それにもかかわらず、フレーム・セットを購入したのは血迷ったとしか言いようがない。海よりも深く反省する。

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