XYZ Cargo Trike 輸入顛末記

デンマークのコペンハーゲンで強く感銘を受けたのが、XYZ Cargoのカーゴ・バイクだった。オープンソースのモジュラー自転車というコンセプトも興味深いし、どこでも入手可能なアルミ角パイプで構成されるフレームは、独特の造形美を醸し出している。パイプに穴を開けてボルト留めするのは、精度的に心もとないが、実際に試乗したところ、滑らかな漕ぎ具合と快適な乗り心地に驚かされた。

この時点では決めかねていたが、後に養老アート・ピクニックの企画を進める中で、XYZ Cargoの展示と試乗を行いたいと考えるようになった。日本ではカーゴ・バイク自体が珍しい存在なので、人や物を運ぶ楽しい自転車として人気を博するに違いない。しかも、オープンソースのモジュラー自転車なんて前代未聞だから、紹介する価値も高い。日本では初登場となるプレミアム感もある。

さて、XYZ Cargoはオープンソースなので、自分で材料を手配して、自分で加工して組み立てることも考えられる。しかし、オープンソースであるのはリカンベントのトライク型であり、類似した自転車は既に所有している。また、将来自作する際には、完成車をお手本にできる。そのようなわけで三輪カーゴ・バイクXYZ Cargo Trikeを購入し、デンマークから輸送してもらうことにした。

ちなみに、このカーゴ・トライクは日本では軽車両扱いになる。日本の規定に合うミニ・サイズを打診してみたが、再設計となるので時間と費用が大幅に必要とのことだった。また、キットのように分解したパイプやボルト・ナットだけを輸送することも提案した。しかし、これも想定外らしく手間が随分とかかると言う。そこでオリジナル・デザインの完成車をそのまま船便で輸送することで合意した。

XYZ Cargo Trikeの通常価格は1,650ユーロ(約22万円)だが、梱包費と輸送費がかかり、日本での税金や国内輸送費もかかる。これらを合わせると随分な金額になるので、普段AmazonやWiggleを利用している感覚からすれば不可解に思える。ただ、知り合いの業者に尋ねたところ、梱包に費用がかかること、サイズが大きいこと、一点物であることを考えると、むしろ安いくらいだろうとの話だった。

この支払いはクレジット・カードではなく、口座振り込みにして欲しいと言う。国内送金はオンラインで簡単に行えるので、気安く引き受けたが、これは実際には大変な作業であった。海外送金には、送金先口座の登録、マイナンバーの通知、外貨預金の契約締結、外国為替と外国貿易法上の確認などが必要になり、オフラインの郵送で数日以上かかる。10年以内に消滅する業種「銀行」を実感した苦難だった。

先方には請求書と契約書を作ってもらった。訪問時に誠実な人柄と堅実な商売を実感していたが、予想できないトラブルがあるかもしれないからだ。ただ、契約書と言っても覚書であり、気休めにしかならない。正式な国際契約となれば、膨大な弁護士費用と時間がかかるからだ。ともあれ、このようにして発注と契約が完了したのが8月末。9月初めには発送したとのメールが来る。

船便での輸送だから、少なからず時間がかかる。ただ、1ヵ月経過しても何の音沙汰もないので、先方に状況を尋ねる。トラッキング・ナンバーはないとのことで、輸送業者から連絡させると言う。しかし、業者からは連絡がないまま11月が近づき、イベントに間に合わない危惧を覚える。何度か問い合わせた結果、輸送に遅延が生じており、日本への到着予定が11月6日と知らされる。

だが苦難はさらに続く。通関業者が挨拶と手続きに来る。何を大袈裟なと思いきや、実際にも大袈裟だった。税関を通すために、輸入品の申告書、ブレーキにアスベストを使用していない証明、使用している部品のカタログや仕様書などを出せと言う。さらには、なぜか部品と部品の間隔など追加で質問が来る始末。税関では大型X線検査までしたらしい。10年以内に消滅する業種に「税関」を追加して欲しい。

ようやく税関検査を終え、輸入許可となったのが11月15日。すでにイベントの設営に入っていたので、翌日に現地への納品を依頼する。やってきたのは4トン車で、広い荷室に木箱がひとつだけちょこんと載っている。この木箱は大きく、総重量は60kgもある。ささくれ立った太い木材から、何十本もの釘をバールで抜く。2ヵ月以上閉じ込められていたXYZ Cargo Trikeが解放される。

残る作業は、輸送時に外されていたホイールやケーブルの取り付けだ。マニュアルがないので、確信が持てない箇所もある。ただ、自転車のメカニズムに詳しい人に見せると、すぐに解決した。すべて標準的な装備だそうだ。このようにして展示準備が整ったのが開催日前日11月17日の夜。発注した8月末からすれば、3ヵ月弱もかかったことになる。ギリギリながら、なんとか間に合った。

なお、自転車の関税はゼロだが、消費税、通関料、国内輸送費、手数料などが必要だった。同じヨーロッパでも、Halfbike(ブルガリア)なら送料数千円で1週間ほどで届く。数倍のサイズと個人輸入ゆえに、費用と時間が増大するわけだ。気休めながら、クリスチャニア・バイクの国内価格を考えれば納得できるかもしれない。重要なのは、XYZ Cargoの特異なコンセプトを日本で如何に活かすかだろう。

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