「新製陸舟奔車 2017」を作る

この度、岐阜県、養老公園で行われた「養老アートピクニック」にて、筆者(sy)は「バイク・ハック」という名前の展示で参加をした。この展示は、それぞれ異なる種類の自転車を実際乗ってみて、普段とは違う身体の感覚を味わえる、体験型の展示である。

展示の様子。

この展示で乗ることができる自転車は、どれもが普段我々が使っている自転車とは違う。こちらの記事で紹介されているように、展示で使用された自転車は、荷物を運べるカーゴバイク、レース用のリカンベントトライク、そして立ち漕ぎが前提だが、普通の自転車の半分の長さしか持たないハーフバイクなど、特殊なものばかりである。

そして、その中の「新製陸舟奔車 2017」は、筆者が製作した作品であり、確かに自転車と呼べるものではあるが、機能や目的としている部分が普通の自転車とはかなり異なる。つまり、筆者はこの展示を通して、「身体を使って動かす乗り物」として、「自転車」をもう一度考え直して見ることで、体験者にその可能性の広さを感じて欲しかった。

体重を移動させながらクランクを回していく。

そこで、この投稿では、この「新製陸舟奔車 2017」の製作過程を書いていこうと思う。

まず、新製陸舟奔車は、こちらの記事で確認できるように、江戸時代に実在した、船の形をした、木材で作られた乗り物である。そこには、はっきりとクランクとペダルと認識できる機構が考案され、使用されており、自転車の祖先と言える。

そこで最初にクランク構造をパイプで試作し、製作を始めた。

初期の試作段階。
ペダルが地面すれすれになる。

この試作段階では、パイプを溶接することで、体重を支えられるクランク構造が作れることがわかった。ただ、足をペダルに乗せた時、地面すれすれに近づくことがあり、もしも地面に石や突起物があった場合、引っかかる可能性が予想された。だが、先にハンドル部と前輪に関する作業をするために、クランク関連の作業はひとまず保留とした。

材料は主に異形鉄筋で、TIG溶接機を主に使用している。

そして、前輪に関する作業に移行した。パイプを短く切って重ね、回転できるパーツを作りつつ、サスペンションをつけた。このサスペンションは、体重を移動させて車体を揺らしながら、「船」のような感覚を味合えるようにするために、必要なものである。これは、元のモチーフである木製の新製陸舟奔車が、船の形はしていても、実際の船に乗った感覚は得られないので、せっかく現代の材料で作ると決めた時、自分の表現として表したかったことであり、今回の作品の重要なポイントである。

前輪構造のスケッチ。
前輪の製作。
前輪につけたサスペンション。

それから、ハンドルをつけ、前輪につなげて、ステアリングができるようにした。塩ビパイプと軽いパイプでハンドルを試したが、車体を傾けることが必要なので、後でもっと頑丈な部材に変えることになった。

ステアリング構造のスケッチ。
ハンドルとステアリング構造を製作。
昔の新製陸舟奔車は、紐によって前輪を回していた。

ここから、前にも述べたように後輪の修正作業に入った。当初はそれまでのクランクと駆動系のパーツを破棄し、27インチの大きさの車輪から新しくクランク部分を製作した。そうすることで、地面に足がぶつかる危険を無くし、その分、車体を傾けられるようにもなった。この時の傾きは左右の方向になるため、後輪にも各自、サスペンションをつける必要があった。

新しい駆動系のスケッチ。
新しく駆動系を製作。
市販の27インチの自転車ホイールを使用し、改造。
後輪とサスペンションのスケッチ。
後輪にもサスペンションを設置。

ここまでで、大体の基本的な機能が揃うことになるが、まだまだ操縦性があまり良くなく、車輪の角度を調整したり、補強も行う必要があった。ハンドルはもっと重い材料で頑丈にし、新しいクランク部分も補強も行った。

この作業で使用した車輪はアルミ製だったので、同じアルミで出来た、取っ手をつける必要があった。アルミと鉄を、そのままでは溶接できなかったからである。そこで取っ手となる部品を溶接した後、ボルトとナットを使って締結させることで、クランク部分が完成した。この作業により重量が増したが、市販のホイールではクランクの重さに耐えられずに曲がるので、こういった作業が必要だった。

こうして、下の写真のように、ほとんどの作業が完了し、ブレーキと追加の補強作業が終えてから、展示に向かうことができた。

あとはブレーキと補強作業のみ。
補強作業を進める。
本番の展示での作品の様子。

今回の製作を進めることで、乗り物ついて個人的に分かったことは色々あった。特に、力の伝わり方をどういう構造を持って分配し、コントロールするか、などについて良い勉強になったと思う。ただ今回は、それを感覚に依存して作業をしていたのだが、これからは、力学的な計算を用いて、長さや角度を決めていきたいと思う。そうすると、どれほどの力を人間が出す必要があり、駆動系を動かす途中でもどの角度で一番大変になるのかなどを知って、結果、望む身体の感覚と、そのための乗り物の形も決めることができると思う。そうやって今後も、新しい乗り物を製作して行きたい。

最後に、新製陸舟奔車の資料を提供してくださった、彦根市立図書館の方々と、今回の野外での展示を、気象状況が良くないにも関わらず体験してくださった方々に、感謝の意を表したい。ありがとうございました。

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