トム・ウェイツが壊れた自転車を歌う

しゃがれ声の酔いどれ詩人トム・ウェイツが歌う「Broken Bicycles」は、映画「ワン・フロム・ザ・ハート」の挿入歌。物憂げなピアノに寄り添って「壊れた自転車、古びて切れたチェーン、錆びたハンドル・バー」と歌われる。bicyclesと複数形なので、1台ではなく2台、もしくはそれ以上の自転車が雨に打たれているはずだ。喪失の歌なのだろうか。しかし、私たちの愛は残ると言う。

Broken bicycles,
Old busted chains,
Rusted handle bars
Out in the rain.
Somebody must
Have an orphanage for
these things that nobody
Wants any more
September’s reminding July
It’s time to be saying … good-bye.
Summer is gone,
But our love will remain.
Like old broken bicycles
Left out in the rain.

Broken Bicycles,
Don’t tell my folks;
There’s all those playing cards
Pinned to the spokes,
Laid down like skeletons
Out on the lawn.
One wheel won’t turn
While the other has gone.
The seasons can turn on a dime,
Somehow I forget every time;
These things you’ve given me
They always will stay
They’re broken… but I’ll never throw them away

Broken Bicycles 歌詞 © BMG Rights Management US, LLC

この映画は随分と昔に場末の名画座で見た記憶がある。全編スタジオ・セットの似非モノ感満載の映像に馴染めないまま、いつしかうたた寝していた。そのようなわけで、壊れた自転車が歌われるシーンは覚えていない。YouTubeにある抜粋シーンに自転車は写っていないし、前後関係も分からない。もう一度映画を見直すべきか否かは悩ましい。このまま朧げな歌を楽しむのが良いのかもしれない。

自転車の歌や音楽となると、爽快さや愉快さを全面に押し出した作品が多いだけに、この曲のメランコリックさが際立つ。「骸骨のように横たわり、芝生に投げ出された」自転車は「車輪のひとつは回らず、もうひとつは失われた」と言う。ただ、壊れ崩れても、捨て去ることはできないらしい。なんとも複雑な気持ちになるのは、同じことを自ら体験することを知っているからだろう。

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