電動アシスト自転車を使いつくす本、を使い尽くせるか?

疋田智著「電動アシスト自転車を使いつくす本」は、その名の通り、電動アシスト自転車についての単行本だ。その特徴や効用から注意点や将来の展望まで、200ページに渡って説明されている。軽妙な語り口なので読みやすいが、強引な展開に辟易しないでもない。ただ、知っているようで知らなかったことも多い。電動アシスト自転車に興味がある人にも、すでに乗りこなしている人にも参考になりそう。

筆者は40年もの自転車歴があり、全都道府県を自転車で回ったそうだ。かなりの自転車通である著者が力説するのは電アシ子乗せママチャリの便利さ。子育ての前提条件であり、子育てを何倍にも楽しくしてくれると言う。しかも、総重量100kgを超える戦車級の自転車を楽に駆動し、すぐにブレーキが効いて耐久性もあるのだから、何とも優れた性能を備えていることになる。

大きな子供用のシートや買い物用のバスケットを備えたママチャリは、極めて日本的である一方で、なんともダサい印象を与える。だが、本書を読み進めれば、メーカーの不断の努力もあって、これはこれでアリだと思えてくるから不思議。同じような目的のために欧米ではカーゴ・バイクがあるが、日本にはママチャリがあると胸を張れる。それぞれの風土に根ざした固有の機能と美学を備えているわけだ。

逆に言えば、ママチャリは独自の進化を遂げたガラパゴス車に他ならない。これは、自転車が歩道を走る誤った習慣、あるいは危険なので自転車が車道を走れない道路事情が大きく影響している。そして、複雑で非力な電動アシスト自転車の法規制が拍車をかける。こうして日本独自の活路となったのが、電アシ子乗せママチャリだろう。そのような背景を本書は解き明かす。

もちろん、ママチャリは電動アシスト自転車がもたらす可能性の一端でしかない。そこで、筆者はロード・バイク型の電動アシスト自転車や、中国や欧米での状況を紹介し、国内の販売店やメーカーにインタビューを行う。このあたりは浅くしか語られないが、それでも日本の閉鎖的状況が浮かび上がる。法律や規則が時代遅れになっても、見直して改定するだけの柔軟性を欠いているのだから、やりきれない。

悪しき実例を挙げれば、電動アシストの最高速度がそうだ。これは原付の最高速度である30km/hの8掛けとして24km/hに決まったそうだ。妥当な理由は何もない。しかも、制定された1993年から20年以上が経過し、安全面を含めて技術的向上が著しいにもかかわらず、法令改正は行われない。当時は人気のあった原付が絶滅危惧種になったにもかかわらず、制限の根拠になっている。

本書の刊行は2017年8月で1年少々前だ。電動アシスト自転車の状況が大きく変わりつつある昨今だから、本書の賞味期限は長くない。むしろ、法律上の規制や技術的な革新については、本書の内容が早く陳腐化するほどであって欲しい。ガラパゴスな日本市場に対して、すでにVanMoofが参入を果たし、Boschやシマノが続こうとしている。近い将来に本書の続編が現れることを願いたい。

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