アーキペラゴを巡る海外初ロング・ライド

国内はともかく、海外でのロング・ライドは不安があるかもしれない。どこで自転車を借りる?道に迷わない?雨や雪が降ったら?パンクしたら?自販機やコンビニはある?宿泊は?などなど不安材料は尽きない。筆者にとって海外初の長距離ライドは、フィンランドの美しいのアーキペラゴ(多島海域)を巡る2泊3日の旅だった。2014年6月、夏至に近い最高の季節。この素晴らしいライドは、多少苦労もあった。

当時、フィンランドの古都トゥルクに滞在していたので、現地の知人に自転車レンタルを紹介してもらう。ロード・バイクを希望したものの、実際に借りることができたのは、ママチャリに近い実用車。20kgオーバーと思われる重量級で、ペダルの回転が重く感じる。乗り心地は悪くはないが、長距離長時間ともなれば、疲れたり痛みを感じるかもしれない。数段の変速機が付いていたのが、せめてもの救い。

万全を期して早朝に出発。まだ眠っている街を後にして郊外へ。自動車道路と並行して独立した自転車道が整備されているので、安全に快適に走ることができる。路面はきれいに舗装されており、アップダウンも少ない。自動車のマナーも素晴らしい。信号のない交差点や進入路では、必ず自転車が通り過ぎるまで待ってくれる。もしや、ここは自転車天国ではないか。日本とは余りにも違う快適環境に感激する。

だが、快適な快走も束の間、空模様が怪しくなったと思いきや、雨が降り始める。最初は霧雨のようだったが、次第に雨粒が大きくなる。雨具を持っていなかったので、ずぶ濡れになる。人家が少ない郊外だったが、幸いなことに地図アプリでスーパーマーケットが見つかる。喜び勇んで駆け込み、トイレで乾いた衣服に着替える。そして、買い求めたレインコートを着込んで再出発。雨の中、ペダルを漕ぎ続ける。

天気予報アプリを確認しても、この後何時間雨が降り続くのかは分かりにくい。その日の宿までの距離が分かっても、何時間で着くかも判断しにくい。この先の地形や道路状況が分からないからだ。そのような不安があるので、早々に雨の中へ走り出した次第。これが馴染みの土地なら、悠々と雨宿りをしていたかもしれない。白夜に近い日の入りなので、夜遅くまで走ることもできるからだ。

しとしととした小雨が昼過ぎまで降り続く。嬉しくはないが、レインコートがあれば雨中ライドも悪くない。森と湖の国と呼ばれる風景が、情感豊かに雨に映える。だが、晴れ間が広がれば、それこそ至福のライドとなる。青い海と空、緑の島々の中を美しい道が続き、緩やかなカーブも快い。時折現れる人家はお伽話の挿画のよう。小さな街をいくつも通り過ぎ、島から島へと渡って行く。

トゥルクから続くアーキペラゴは何千何万という島々から構成されている。その多くは無人島だが、数珠繋ぎのように人が住む島があり、道路が整備されている。島と島との間は、優美な橋が架けられている。だが、道路が突如として断崖で終わり、海に突っ込みそうな箇所もある。これはフェリーで海を渡る船着場だ。数メートルの小さなフェリーもあれば、何十台も自動車を載せる大型船もある。しばし海の旅。

一日の走行距離を短めに設定して宿を予約していたので、夕方には投宿して周囲を散策する。宿がある街でも人口は数百人程度だろうか。小さな港があり、古い教会があり、カフェやレストランが数店といったところ。派手さや騒々しさは皆無で、深く落ち着いた雰囲気。意外と若い人が多いので聞くと、大学生が夏のアルバイトとして働きに来ていると言う。島と海の魅力が、高齢化や限界集落化を阻止する。

落ち着いた雰囲気と言えば、途中で立ち寄ったムーミン・ワールドもそうだった。ムーミンやミーなど、お馴染みの着ぐるみが愛嬌を振りまき、絵本やアニメの世界そのもののパステル調の可愛い建物が並ぶ。だが、ファンタジーはそこまで。皆でラジオ体操のようなダンスをしたり、絵本を読み聞かせたりして、誰もがのんびり過ごしている。ネズミの国のような刺激的なアトラクションは存在しない。

このようにアーキペラゴ周遊は、初日午前の雨以外は好天に恵まれ、麗しいまでに爽快なライドだった。2泊3日で全行程140km、ロング・ライドと呼ぶのは気恥ずかしい。だが、それだけにのんびりと走り、景色を楽しみ、周囲を散策できる。トラブルがあっても対処できる。海外ライドは、これくらいの旅程が丁度良いかもしれない。そして、命綱はiPhone。電波とバッテリーがあれば何とかなる。

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