ロンドンからブライトンへクラシック・ライド

アーキペラゴでの経験から、海外ライドは余裕を持って短めの距離が良いと思った。だが、僅か3ヵ月後のロンドン滞在時には、知人3人でイギリス南部の景勝地ブライトンへ行こうとした。その距離、約100km。頑張れば半日、ゆっくり走っても1日あれば辿り着ける。ロンドンで借りた自転車はTrekのMadone 3.5、カーボン・フレームにUltegraコンポーネント。走行性能は上々のはず。

ブライトンはロンドンの真南にあり、多少の湾曲はあるが、ひたすら南下すれば良い。これは古くローマ時代に作られた道であり、クラシック・ルートとも呼ばれる。すべての道はローマに続く…のだが、当時もドーバー海峡はあったので、ローマには繋がっていない。ロンドン市内はサイクル・スーパーハイウェイを利用して通り抜け、市街地を過ぎれば交通量も少なく快適に走行できる。

ところが、走っているうちに不穏な気配がしてきた。自動車がかなりの高速で走っているのだ。どうやら自動車専用道路に迷い込んだらしい。やがてパトロール車が近づいてきて、事情を聞かれる。地理に疎い外国人だと理解されたようで、近くの一般道に誘導される。後で地図を見れば、一般道であるA23が分岐し、そのまま高速道路M23になっていた。標識はあっただろうが、AとMの違いが分かっていなかった。

この高速道路侵入以外はトラブルはなく、美しいイギリスの田園地帯を走るのは、すこぶる楽しかった。なだらかな丘陵地帯に広がる牧草地と、背の高い緑の生垣(エンクロージャ)が続く。荘園領主のような邸宅もあれば、お伽話の小屋のような住宅もあり、それぞれ綺麗に整えられた英国式庭園が垣間見える。イギリスの田舎は半分は自然であり、半分は人工である独特の感覚に彩られている。

このクラッシク・ルートの大半は、起伏が緩やかで走りやすい。だが、中盤の小高い丘を過ぎると下り坂が続き、快走できるのが落とし穴。最後の最後になって、急勾配の山越えが現れる。既に100km近く走って体力を消耗しているだけに、これは辛い。自転車を押して歩きたくなる。ただ、なんとか登り切れば、夕暮れにブライトンの灯りが見えてくる。なんとも心憎い地形の演出、大きなお世話だ。

ブライトンはイギリス有数の海浜リゾート地にして、ゲイの都、そして「さらば青春の光(Quadrophenia)」や「ブライトン・ロック」の舞台でもある。もはやモッズロッカーズを見かけることはなく、ただビーチと歓楽街に華やかな喧騒が渦巻く。壮麗なロイヤル・パビリオンや賑わうパレス・ピアにも増して印象的だったのはウェスト・ピア。焼け落ちた桟橋、海上に残る鉄骨の構造体だ。

ブライトンからは、東に30kmほど離れたセブン・シスターズにも出かけた。荘厳なまでに美しい白亜の断崖絶壁が続き、その端のビーチー岬は自殺の名所でもある。「さらば青春の光」のラスト・シーンもここだ。周辺はサウス・ダウンズ国立公園に属し、山あり谷ありで楽しめる。自家用車で周遊する観光客は多いが、サイクリストは少ない。なぜ日本人がこんなところで自転車に乗っているのだと聞かれる始末。

セブン・シスターズへの道もそうだが、主要自動車道には自転車レーンが整備されている。これはNational Cycle Networkと呼ばれ、ブライトンを含むイギリス南部の海岸線沿いはRoute 2だ。この自転車道はイギリス全土に渡り、北アイルランドにもオークニー諸島にもある。ロンドン市の自転車政策が有名だが、イギリス国家としても自転車インフラに力を入れているわけだ。

さて、帰路の山越えには異議が多く、鉄道利用となった。もちろん自転車はそのまま列車に持ち込みで、追加料金は不要。中間地点にあたるガトウィック空港の駅で下車。残り50kmほどを自転車でロンドンに向かう。特にトラブルはなかったが、ランチに立ち寄ったレストランが、ブラック・ジョーク満載で面白かった。実は高速道路侵入地の近く。魔がさす地域らしい。

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