いつか見に行くペナン島の自転車

自転車をモチーフにした絵画は数多くあるが、なかでもErnest Zacharevic氏の「Little Children on a Bicycle」は印象的な作品だ。これは、作品名の通り、自転車に乗る幼い2人の子供が描かれている。サドルに腰掛けハンドルを握る少女は、正面を見据えて得意顔だ。後ろの荷台に乗る少年は弟だろうか、少女にしがみついて顔をくしゃくしゃにしている。今にも二人の歓声が聞こえてきそうだ。

よく見れば、少女の足はペダルの上端に届く程度で、ペダルを漕ぐことはできそうもない。つまり、少女も少年も留まった自転車に腰掛けて、その疾走を想像して歓喜に包まれているわけだ。そして、気がつくだろう。自転車は実物であり、壁に立て掛けられている! 少女と少年だけが絵として描かれているわけだ。初見では気づかないほど、見事に絵画と物体とが融合している。

この作品は、2012年の「Georgetown Arts and Culture festival」におけるパブリック・アートとして、マレーシアのペナン島ジョージタウンに設置されたらしい。自転車以外にもオートバイやボートをモチーフにした作品もあり、いずれも現実に絵画が溶け込み、絵画が現実を引き込んでいる。一種の拡張現実だが、そのような概念を必要としないほど素晴らしい詩情に満ち満ちている。

この作品を知ったのはネット・サーフィンに他ならないが、何度もディスプレイ上の写真を見るにつれて、現地に赴いて実物を見たくなった。ペナン島は「東洋の真珠」とも呼ばれる美しいリゾート地で、ジョージタウンは植民地時代の下町の雰囲気が残る世界遺産。旅行をするにはうってつけだ。だが、この作品はジョージタウンのどこにあるのだろう。迷路じみた路地裏で迷子になりたくない。

さらに調べると、ジョージタウンのストリート・アートを訪ね歩くサイトがあった。さらに設置位置とお薦め経路が記載されたマップも見つかった。これで作品に辿り着ける。だが、今も現存していているのだろうか。そこで、ストリート・ビューを開いてみる。驚いたことに、作品が残っているだけではなかった。そこには自転車の荷台に腰掛ける娘と父親、そしてカメラを向ける母親がいた。

ストリート・ビューが示すように、この作品は高い評価と人気を得て、今もジョージタウンの一角に存在しているらしい。自転車は実際に乗らないことには意味がない、そんな固定観念を覆すかのように、子供たちの歓声が響き渡る。現実のペダルを漕ぐ架空の子供を通して、幼い日の記憶が蘇る。あの路地を自転車で走り、転倒して膝小僧を擦りむくだろう。そんな夢と幻がペナン島にあるようだ。

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