ロンドンの先鋭カルチャー、出前スタイル

一年近く前になるが、2016年6月にロンドンを訪れた時に、自転車で出前をすることが流行っていることに驚かされた。飲食店から料理を取り寄せることが人気であり、それを自転車で運ぶ職業が注目されていたのだ。2年ぶりに会った知人は、長髪のカーリー・ヘアを短髪に刈り上げ、精悍な顔つきと屈強な身体になっていた。身体を鍛え、健康を保ち、報酬を得る。最高だろう?と言う。

その知人は、夜半に仕事を終えたままの姿で、ソーホーのバーに現れた。黒いTシャツに黒い短パン、足元は黒いシューズ・カバー。仕事道具である自転車も、黒く塗りつぶしたシングル・スピード。その後部には大きな黒い断熱箱。その中にも収納と振動吸収のための黒い小箱。すべてが黒なのは彼のこだわり。何色でも良いのだが、カッコイイ自転車乗りは黒が多いらしい。

箱のロゴから分かるように、彼が携わっているのはDeliveroo。ロンドン初のフード・デリバリー専門の、急成長を続ける注目スタートアップ。出前と言っても、伝統的なそれではなく、モバイル・テクノロジーを最大限に活用したサービスを展開中。つまり、Deliverooはレストランと利用者と配達人を結びつけ、その流動を最適化する情報サービスだ。新しい酒を古い革袋に入れる意欲作と言える。

利用者の立場ではこうなる。モバイル・アプリをインストールして起動すれば、現在位置を中心に近隣のフードが美麗な写真で並ぶ。種類によいる絞り込みや検索も可能。初回でも、クレジット・カードの登録を含めて、10分もあればオーダーができる。その後刻々と地図上を配達人が移動するのが楽しい。もちろん、アプリを閉じていても配達直前に通知される。このあたりの体験性は極めて優れている。

配達人は個人事業主として、専用アプリを開いて対応可能な時間帯と地域を登録する。その条件に合い、現在位置に近い注文が入れば、配達人に通知が届く。その配達を請け負って完遂すれば、報酬が得られるわけだ。好きな時間帯に働くことができるどころか、複数のサービスとの重複契約もできる。つまり、これは単純な請負労働ではなく、労働と報酬の最適化を目指すゲームと化す。

配達手段も配達人の選択次第。自動車でもオートバイでも構わないが、多くの配達人が選ぶ最適解が自転車らしい。その自転車は自分で用意しても良いし、Deliverooから借り受けたり、メンテナンスを頼んだりもできる。実際の配達では、渋滞などの道路事情を考慮しながら、迅速かつ丁寧に走行する。所要時間は常に計測され、利用者からの評価も受けるスリリングな知的ゲームだ。

このような事態は1980年代のメッセンジャーを連想させる。インターネットが社会に浸透して書類を届ける必要性が薄れた一方で、電子決済できない飲食物を運ぶことが表舞台に躍り出たわけだ。これはヒップホップのような新しい文化を生み出せるだろうか? その一端は知人に紹介された自転車屋で感じた。彼と同じく屈強な職業自転車乗りたちは、確かにカッコイイ何かを醸し出していた。

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