国内唯一の自転車博物館サイクルセンター

大阪府南部の堺市に日本で唯一と言う自転車博物館がある。一度は訪れたいと思っていたところ、お誘いをいただいて出かけることになった。東京ディズニーランドより広い巨大古墳、仁徳天皇陵の近くに位置する自転車博物館サイクルセンターは、3フロアに渡って自転車に関する多様な収蔵品を展示している。写真でしか見たことのなかった数々の自転車に思わず見入ってしまう楽しい施設だった。

自転車博物館では、2階のエントランスから入場すると、まずドライジーネに迎えられる。自転車と原型と言われる世界最古の乗り物だ。火縄銃の展示もあり、堺が戦国時代から鉄砲の生産地であったことが語られる。この鉄砲鍛冶の技術を活かして、明治時代に輸入された自転車の修理から国内生産へと、堺は自転車の町として発展した。今日でも世界トップの自転車部品メーカーShimanoの本拠地だ。

自転車の歴史や文化を紹介するビデオを見た後は、数十台の自転車によって、その歴史を一気に辿る壮大な展示になる。ドライジーネからミショー型、オーディナリー、セイフティーへと自転車の進化が実物で確かめられる。また、不思議な機構の自転車も多数あり、夢破れた果敢な試みの数々も印象的。最後はトライクの最高峰Windcheetahと有機的形状のトライアスロン車Ceepoだ。

階下の1階に移って「見える収蔵庫」では、約250台もの自転車がぎっしりと詰められている。展示しきれない自転車を保管しながら、その全体像を見せるアイディアが秀悦。個々の自転車には簡単なラベルしか付いていないものの、歴史的な自転車や特殊な自転車、そしてオリンピックで活躍した自転車などもある。この圧巻の物量によって、普段は意識しない自転車の膨大な営みが胸に迫ってくる。

1階には図書館もある。それほど広い部屋ではないが、それでも壁一面、天井まで届く書架に自転車関連の書籍が並べられている。50年以上に渡って刊行された「ニュー・サイクリング」などの雑誌や、冒頭の自転車通学シーンが有名な「はいからさんが通る」といった漫画を含めて幅広く所蔵されている。ただ、映像や音楽などの資料はなく、蔵書リストが公開されていないのが残念。

3階には2016年度の企画展として「ユニークな自転車」が10台ほど展示されてる。セミリカンベントのRevive、ソラーパネル付き全天候型電動アシスト・トライクのAWTT、2人が並んで漕ぐサイド・バイ・サイド自転車などが楽しい。また、常設展示では、今日の代表的な自転車の紹介や、世界一周旅行に使われた自転車も置かれている。ブレーキやギアの仕組みを学ぶ科学館的設備もある。

このように自転車博物館は、自転車好きでなくても感心する興味深い構成になっている。ただ、歴史考証的な展示が多いので、新説・異論として江戸時代の自転車にも切り込んで欲しいところ。また、情報技術や共有文化を含めた現代の革新や、都市施策から嗜好流行に至る社会と意識の様相、そして世界と日本の比較紹介も取り込んで欲しい。些細なことだが、お洒落なミュージアム・グッズも欠かせない。

さらに、一般の博物館でも常に感じることだが、静態展示やビデオ紹介では体感できないことにフラストレーションを覚える。乗ってナンボの自転車なら尚更だ。そこで、近くの「自転車ひろば」では、歴史的な自転車のレプリカに試乗できる。ドライジーネやオーディナリーに実際に乗れるのだから、これはまたとない体験になるはず。今回の訪問は開催日ではなかったので、再訪の大きな理由になった。

ところで、日常的に多くの人が利用する自転車でありながら、その博物館が日本にひとつしかないのは不可解に思える。これが自動車なら全国に29ヵ所もある。もっとも、市場規模は自転車が1400億円に対して、自動車は62.5兆円と桁違いだ。となれば、自転車博物館がひとつであるのも妥当かもしれない。しかし、市場規模がすべてではない。老若男女、広く人々の生活に密着する自転車は重要だからだ。

類似した国内施設には、閉館した名古屋のサイクル・ギャラリー・ヤガミや、書籍などの資料を中心とした東京の自転車文化センターがある。一方、膨大な現物所蔵の博物館として「世界有数、日本唯一」の同館は、2018年7月に移転して新装オープンする。広さが2.4倍になり、現行展示の拡充に加えて、サイクル・ステーションの新設や体験乗車の強化が行われるとのこと。これは期待せずにはいられない。

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