Critical Cycling展 2017 Winterの概要

2017年2月23日より26日までの4日間にわたって、Critical Cycling展 2017 Winterを開催した。これはクリティカル・サイクリングの活動と成果を伝えるべく、情報科学芸術大学院大学第15期生修了研究発表会 プロジェクト研究発表会(いわゆる卒展、通称IAMAS2017)の有志企画として行われたもの。作品や資料の展示はもちろん、ワークショップやトーク、そしてライドと多彩な内容となった。

メイン会場トップ・ブースのCritical Cycling展で、最初に目に入る「Bike in the shell」のインパクトが絶大。トライクの座席を囲む球状ドームの内側に130台のiPod touchが取り付けられ、イン・カメラの映像と色彩が眩く点滅している。フレームにはタイヤが巻かれ、固定タイラップが棘のように生える。内部には複雑に絡み合う充電器とケーブル。実際に人が乗って実走できると説明すると驚かれる。

一番狂っているとの評判が高かったトライク作品が完璧な導入となり、壁面の説明パネルに繋がる。ここでは自転車をベースに社会や文化を考えています、と簡単に伝える。パネルは、展示の全体紹介とクリティカル・サイクリング宣言、ロンドンとオレゴンの海外調査、羽島での地域調査、そして4つの作品とイベント紹介、と10枚で構成される。テキストと写真を熱心に見入る人が多かった。

パネルの前には、自転車に乗ってペダルを漕ぎながら体験するVR作品「The Ridable City」。一人づつしか体験できず、誰もが歓声を上げるので何事かと長蛇の列になることが多かった。実際に通常のHMD体験では有り得ないほど、身体が右に左に揺れ動き、スタッフが支えていなければ転倒しそうな人が続出。技術に詳しい人からはPlaystation VRについての質問が相次いだ。

室内限定のVR作品に対して、実際に屋外で走行可能な作品が次なる「Starry Ride」で、今回はPrototype 3にあたるプロジェクタ搭載バーション。仕組みとしてはVR作品と同じで、ハブに仕組んだジャイロ・センサーで、全天球映像の代わりに幾何学的VJ映像を制御し、HMDの代わりにプロジェクタで映像を投影する。暗闇でないのが残念だったが、没入的なVRに対して開放的なライドを疑似体験できる。

また、同じく実走を想定したHoloLensによる作品も用意した。ただし、こちらはプロトタイプとしても初期段階にあり、希望者のみに体験を限定した。現段階では、自転車のジャイロ・センサーの値をスピード・メーターとして表示することと、空間に配置した円環状のオブジェを自転車でくぐることを実装している。ハードウェア的な制約もあるが、内容としても独創性に欠ける段階だ。

体験型の作品の後は、これまでのライド風景や作品実走などの映像上映、400枚以上に及ぶ自転車関連情報のQRコード付きカード「Bike Card」、そして数十点もの自転車関連の書籍やDVDなどの資料展示となる。クリティカル・サイクリングの活動が始まって1年にも満たない期間で、折に触れて少しずつ調査収集したものが、内容的な広がりと数量的な充実に至っていることにメンバー自身も驚く。

これらの資料は、自転車を巡って来場者と話す機会の触発でもあった。特に随時行われた「Bike Cardワークショップ」では、来場者が気になったカードを3枚選んでコメントとともに記念撮影し、楽から苦への一次元評価を求める。これにより、選者ごとの興味や視点が明らかになり、より深い意見交換が導かれる。普段自転車に乗らない人を含めて広く意見を得る手段になったわけだ。

最終日には2つのイベントを行った。まず、朝7:30に集合して「極寒早朝走行会&朝食会」。極寒を期待したものの、日差しが暖かく無風の穏やかな朝で、早春を思わせる爽快なライドとなった。しかも、思いがけずパンクが発生。初心者が多かったこともあり、パンク修理教室が開催される。その後は近隣のカフェで小休憩。中部圏特有のモーニング文化、それも茶碗蒸しと小倉トーストを楽しむ。

同日の昼にはトーク・イベント「自転車について私たちが知っている二、三の事柄」。クリティカル・サイクリングの最初の一年となった2016年度の活動について、主要メンバーが座談会形式で語り合う。ライド景や制作の写真やビデオを上映しながら、実に多彩な活動があったことを振り返る。実際には暗中模索であったが、確かな手応えがいくつもあり、今後の展開に繋げようとの意見で一致する。

このように振り返ると、自画自賛ながら、展示物の訴求力は高く、長く足を留める人が多かった。実際、新聞記事には頻繁に自転車作品の写真が使われている。また、展示構成としても一種異様な作品から、思わず熱中する作品の体験、そして多様な資料の広がりと意見交換へと自然な流れが生まれていたと思う。これを実現したメンバーに賛辞を送るとともに、ご来場いただいた方々に感謝申し上げます。

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