女王陛下の自転車競走

自転車、自転車、自転車。
自転車に乗りたいんだよ。
自転車、自転車!

自転車に乗りたい。
自転車に乗りたい。
自転車に乗りたい。
好きなことろへ自転車で行きたい。

この単刀直入でキャッチャーなフレーズが何度も繰り返されるクィーン(Queen)の「Bicycle Race」(1978)。自転車に乗りたい、とにかく乗りたい、と猪突猛進。その間に、ちょっと風刺が効いた言葉遊びが挟まれる。コーク(コカ・コーラ)とケイン(コカイン)、ベトナム(戦争)とウォーターゲート(盗聴)といったあたりは分かり易い。そして途中のサビでの歌詞は意味深長。Bicycleは尻軽女のスラングでもある。

さあ自転車レースが始まるよ。
だから仕事のことは忘れてしまおう。
お尻の大きな女の子たちが自転車に乗るよ。
だから可愛い女の子たちを見に行こう。
位置について、よーい、どん!

この歌詞に呼応して作られたプロモーション・ビデオでは、数十人の全裸女性が自転車に乗ってサーキットを走る。ただし、靴や靴下は履いていて、何人かは帽子も被っている。自転車はブレーキ付きのドロップ・ハンドル。シングル・スピードが多く、変速機付きも見受けられる。スロー・モーションでなくても、ケイデンスは低いようだ。これが気楽な雰囲気を醸し出す一方で、ビデオを素人っぽく見せている。

このビデオは物議を醸し、裸体をぼかす映像効果がかけられたこともあったらしい。しかし、今見ると明るく華やかであり、健康的な印象すら受ける。このような全裸ライドは、やがて公道でのイベントに繋がっていく。1992年に始まるシアトルのSolstice Cyclistsや2004年から世界各地で実施されているWorld Naked Bike Rideなど、開放的な裸の人々が精密機械の自転車に乗る奇妙な取り合わせが面白い。

Bicycle Raceのもうひとつの聴きどころは、中盤のブレイクでの自転車のベルの音が重なるところ。壮麗なコーラスやギターで有名なクィーンだから、これまた多重録音かもしれないが、かなりラフな演奏なので一発録りだろう。ご丁寧にメンバー4人の担当楽器にbicycle bellsと記載されている。サンプラーが一般化する以前で、Emulatorの試作機が使われたクラフトワークの「Tour de France」より5年も早い。

ところで、この曲はクィーンの中心人物であるフレディ・マーキュリー(Freddie Mercury)の作詞作曲で、The Huffington Postによると、彼自身はそれほど自転車が好きではなかったらしい。スター・ウォーズが好きなのに歌詞では嫌いだと言い、ゲイでありながらお尻の大きな女の子を歌う。それは屈折した矛盾だったろうか。そのように考えると、単純に聞こえるポップ・ソングの陰影が見えてくる。

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