自転車シェアリング〜ポートランドBIKETOWN編

大規模な都市型自転車シェアリングについて、先陣をきったパリのVélib’や続くロンドンのSantander Cyclesを紹介した。今回は2016年6月に運用開始したポートランドのBIKETOWNを取り上げる。現時点で最も新しいシェアリング・システムのひとつであり、従来とは異なる考え方が取り入れられている。筆者は2016年10月に運用開始されて間もないこの自転車シェアリングを数回利用することができた。

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BIKETOWNは1,000台の自転車と100ヵ所の駐輪場でスタートした。パリでの開始は10,000台、750ヵ所、ロンドンでの開始が5,000台、315ヵ所だから、随分と少ないと感じるかもしれない。しかし、ポートランドの人口は60万人弱であり、パリは220万人強、ロンドンは840万人強と、都市の規模を比べれば妥当な数と思われる。実際にもポートランドはコンパクト・シティの代表的存在とも呼ばれる小さな町だ。

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ポートランドの天候は曇りがちで、くすんだ色調の古い建物が多く残る。一方、BIKETOWNの自転車と設備はオレンジ色で塗られており、その鮮やかな色が妙に目立つ。シューズの箱を思い出した人は正解。そう、このオレンジ色はBIKETOWNのスポンサーであり、近郊に本社があるNikeのコーポレート・カラーだ。Swooshマークも付いている。ただし、Nikeは自転車用のシューズやウェアを出していない。

さて、BIKETOWNを利用するには、WEBサイトまたはモバイル・アプリで会員登録し、クレジット・カードを登録する。場所によっては駐輪場の利用端末でも登録可能。次に、自転車後部のボックスで会員番号と暗証番号(PINコード)を入力する。これでU字ロックが解除され、走り出すことができる。自転車の返却は、どの駐輪場でも構わないので、空いているスタンドに自転車をU字ロックで固定する。

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1回だけの利用であれば、料金は$2.5で30分間使える。同じく30分以内なら何度でも使える1日利用は$12、さらに年間利用は1ヵ月あたり$12となっている。いずれも連続して30分を超えると1分ごとに10セント($0.1)の超過料金がかかる。1日利用はロンドンに較べて高いが、年間会員として登録すれば、かなり安い料金で利用できる。BIKETOWNは観光客も利用できるが、より居住者向けのサービスと言える。

WEBサイトやモバイル・アプリでは、駐輪場の使用状況を把握し、自転車を予約することもできる。自転車を使えば、利用料金が表示されるのはもちろんだが、走行ルートや走行距離も表示される。さらには消費カロリーや一定距離ごとに獲得バッジまで表示されるのは、ちょっとしたゲーミフィケーションだ。もっとも、利用に際してスマートフォンは必須ではなく、あれば便利だといった程度だ。

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BIKETOWNの駐輪場では、他のシステムのような利用端末(Kiosk)はオプションであり、駐輪場のスタンドは金属板に過ぎない。その代わりに自転車が利用機能を担っている。その後部ボックスは携帯電話ネットワークの通信、GPSによる位置取得、スクリーンやキーなどのユーザ・インターフェース、電磁式のU字ロックなどの機能を持ち、電源を供給するソーラー・バッテリが備わっている。

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このようにスタンドを簡素化し、自転車をスマート化するのは理にかなっている。理屈では自転車よりも多くの駐輪スタンドが必要になるからだ。ただし、機能を持たせた分だけ自転車の重量が増す。もっともBIKETOWNの自転車は、細身のフレームを使用していて、総重量約20kgとロンドンの戦車よりも若干軽い。実際に乗ってみても、心なしか軽快。8速のギアやシャフトドライブも好印象であった。

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自転車のスマート化は別の利点もある。追加料金を支払えば、BIKETOWNの駐輪場ではなく、任意の場所にU字ロックで固定して自転車を返却できるのだ。これは自転車のGPSを利用した運用だ。さらに、そのような自転車を別の利用者が駐輪場に戻すことで、若干の報酬が得られるようになっている。これを推し進めれば、利用者自身が運営するクラウド・オペレーションも可能になるに違いない。

BIKETOWNはSoBi(Social Bicycles)のシステムを利用している。このSoBiは2011年にプロトタイプを発表し、Kickstarterでクラウドファンディングを行ったのが始まりだ。その時点では専用の駐輪場を持たず、U字ロックをすればどこにでも停めて良いというラディカルな提案だった。駐輪場という母艦を持たず、自転車が独立して自律分散的に動作し、人々が協調して利用することが想定されていた。

このアイディアは早過ぎたのか、Kickstarterでの目標額には達成しなかった。しかし、2013年に投資家から資金調達して本格的な事業を開始。中小都市や大学構内などに導入され、現在はアメリカやカナダを中心に世界27ヵ所でSoBiのシステムが運用されている。いずれも専用の駐輪場を設置しているが、当初の構想のような自律分散し協調するシステムを見てみたい。

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